クリスマスと新年 おめでとうございます!

「平和を実現する人々は、幸いである」(マタイ5:9)

ボネット ビセンテ SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

平和について話す人は多いようです。しかし、特に国々の指導者たちの間で、平和を実現する人は非常に少ない現実は否めません。アフガニスタン、イラク、イスラエルとパレスチナ、シリア等、国家間もしくは国内での紛争や戦争は、絶えることがありません。国連では、平和について色々と語られます。しかし、核兵器の廃絶案について、賛成する国が多いにもかかわらず、核兵器を保有している国々は反対し続けています。

日本国民は、国際平和を実現するために、国際紛争を解決する手段として、戦争と、武力の行使を、永久に放棄し(日本国憲法第9条)、70年間もその決定を守ってきました。しかし、現政権は、平和について色々と語りながらも、その第9条の解釈を一方的に変更し、安全保障関連法を強行可決してしまいました。それによって、集団的自衛権の行使、武器の輸出などを容認しました。平和を実現する人々は幸いであるならば、まるで正反対に進む現政権の人々は、一体何なのでしょうか?

与党の反民主主義的な行動にめげることなく、平和の実現を求め続けるために、学者、作家、法律家などを含む多くの国民が立ち上がりました。東京では、国会周辺、官庁街や日比谷公園など、全国では200か所以上で、その法案の廃案を訴え続けました。大学生もまた、個々の大学を越えて、「自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)」という団体を立ち上げ、デモに参加し、ハンガーストライキなども実施して、同法案に反対の声をあげました。そしてSEALDsの魂(ソウル)を受け継いで発足した「ティーンズ・ソウル(T-ns SOWL)」という高校生のグループも、安保法成立後も、反対のデモを行っています。

SEALDsの設立者の一人には、彼と家族に対して「殺す」という脅迫状が送りつけられたそうです。平和を実現しようとする人は幸いですが、迫害を受けることもあります。

木彫りの聖家族像

クリスマスのメッセージは、こういうときにこそ希望の源となります。そのメッセージとは、神が、他の人を奴隷のように利用し、憎み合い、殺し合う人類のみじめな状況を見て、自ら人間と共に住み(マタイ1:23)、言葉と生き方をもって、赦し合い、助け合い、支え合い、平和に暮らすという人間の本当の姿を現してくださり、人間にとってそれは可能である、というメッセージです。

クリスマスとは、イエスの誕生を祝って、世界や日本がどんな状況であっても、あきらめずに、希望をもって、平和を実現する人になる決意を新たにし、強くするというときです。

Jesuit Social Servicesの活動とオーストラリアのヒューマンサービス

吉羽 弘明 SJ(ブラザー)
イエズス会社会司牧センタースタッフ

はじめに

今年の春、オーストラリアのメルボルンに本部を置くJesuit Social Services(以下JSS)を訪問して、主にJSSがどのような活動をしているのか見学し、またスタッフのみなさんからお話を伺う機会があった。JSSはイエズス会オーストラリア管区に所属する会員が1977年にスタートさせた組織で、現在は法人化されている。およそ200人の有給スタッフ(イエズス会員は現在、霊的同伴司祭、カウンセリングを行うブラザーなど数人が在籍している)が働き、ボランティア登録は200人ほどである。刑務所や少年院などの施設から退所した人に住む場所を提供したのがその活動の始まりであり、現在はあとで述べるような幅広い活動に取り組んでいる。

JSSの具体的な活動内容については、本通信第175号(2014年2月発行)でJSSスタッフのCarolyn Ryanさんがレポートしてくださっている。教育を受ける機会が不十分な貧困状態にある人々、先住民に対する政策の失敗と彼らの不利益、難民・移民の処遇の劣悪さ、精神疾患があるための孤立・スティグマ、アフリカ出身の女性などについてのオーストラリアでの社会問題に対して、JSSがどのような活動を行っているのかが理解できる、興味深いレポートであった。日本でも事柄によっては同じような課題があるが、オーストラリアのような民間組織が積極的に関与する仕組みは弱い。今回のレポートでは、JSSをはじめとするオーストラリアにあるNGOについて、訪問に伴って見えてきたことなどをまとめたい。

今回の私の訪問では、多くの方々にお世話になった。JSSへの訪問を受け入れ、またたくさんのことを教えてくださったCEOのJulie Edwardsさん、秘書のMicheleさんとSophieさん、その他訪問先のJSSと他の二つの組織のスタッフのみなさんからお話を伺えたが、とりわけ先に紹介したCarolynさんには、様々なコーディネートをしていただいた。ご多忙のところ時間を割いてくださり、深くお礼申しあげます。

1 JSSの組織と事業内容

まずは、JSSについて簡単に紹介をしたい。

JSSはヒューマンサービスを行うコミュニティセクターである。ヒューマンサービスという言葉は日本ではほとんど使われないが、オーストラリアでは一般的に「福祉や保健分野等で行われる、個人、家族、地域、社会などに働きかけるサービス」といった意味で使われる。保健、メンタルヘルス、児童・少年司法、障害、高齢、先住民、難民・移民、貧困・低所得者、就労支援、薬物使用の問題、若者支援などがその活動分野であり、コミュニティで困難な状況にある人・事柄に直接的、間接的にかかわる組織を「コミュニティ(サービス)セクター」と呼んでいる。その中で政府機関でない組織をNGO(非政府組織)とかサードセクターと呼んでいる。日本では、国内で活躍するNGOは関係法との絡みでNPO(非営利組織)と呼ばれることが一般的である。

JSSのビジョン(団体の描く未来像)は“Building a just society” (公正な社会の建設)、ミッション(団体の持つ使命)は“Standing in solidarity with those in need, expressing a faith that promotes justice” (支援の必要な人との連帯に立ち、正義の実現を通して信仰を証する)であり、JSSが持つ人や社会に対しての価値観が読み取れる。

財務上の主な収入源は、様々なレベルの政府補助金である。最新の資料では、メルボルンのあるビクトリア州政府の補助が最も多くて41%、連邦政府は21%、市などは1%で、政府補助金は合計で63%である。その他は、JSSの独自収入は27%、一般寄付は4%、企業の寄付などは3%で、イエズス会オーストラリア管区からは3%である。

JSSには複数の事業所や施設があり、本部には管理部門のほか、ボランティアのコーディネート、自死遺族のサポート、広報、先住民・移民・難民の支援、その他を行う部署がある。Brosnan Centreは、法を犯して矯正施設(刑務所や少年院など)に収監されたことのある人に対して、矯正施設からの出所前後の支援などを行っている。Jesuit Community Collegeはこうした司法に関与した人々への芸術活動を行う場の提供、精神疾患のある人へのカウンセリング、若い人への職業訓練、また外部施設を使ったアフリカ系移民などのための英語などの教室を行う。その他、これらの事業所から離れた場所に、矯正施設退所者、特にその中でも知的障害のある人のアパート移行までの施設、キャンプ施設、そして長期失業中の若者を対象に職業訓練を行うIgnite Cafeなどがある。事業の幅に非常に広がりがあるが、現在の社会問題を積極的に取り上げようとしている。

今回は、JSSのほかに、ホームレス状態の人に支援を行うVincentCare Victoriaのシェルターと、Sacred Heart Missionの各施設も訪問させていただいた。

いくつもの先駆的なサービスがあり紹介したいが、残念だがその一部だけを写真とそのキャプションによって紹介したい。

Jesuit Community Collegeのアトリエ
Jesuit Community Collegeのアトリエ
知的障害のある法を犯したことのある人がアパートに移行するための支援をする施設
知的障害のある法を犯したことのある人がアパートに移行するための支援をする施設
Sacred Heart Missionの本部(正面)
Sacred Heart Missionの本部(正面)

2 オーストラリアのヒューマンサービスを行うNGO

一般的に、先進国と呼ばれる国では、政府には人々が生きていく上で必要な役割を担う責任があり、人々にはそれを享受する権利があることが法で規定されている。しかしながら、政府はいつもこれを完全に行っているわけではなく、民間組織であるNGOは政府の苦手なこと、しないことにも積極的に関与してきた。

JSSをはじめとするオーストラリアのヒューマンサービスを行うNGOについて、日本とは違う特徴として「組織の自律性の高さ」という点をあげることができると思う。

政府との関係では、日本のNPOの場合は行政からの委託を例に取ると、委託内容が行政によって確定され、委託費は必要な費用をまかなえない低額であることもあり、本来政府のすべきこと(費用負担を含めて)を民間組織の「無理」によってカバーし、その結果組織が疲弊する例も少なくないことが指摘されている。オーストラリアでは、NGOと政府は並列的な立場でサービスの提供を行っているとされている。実際JSSのスタッフに伺ったところ、政府からの委託を受ける時にどのようなサービスにするのかを決める場に、委託先となるJSSが参加することがあると話していた。その他自律性にかかわって、①活動を透明にしていること、②活動における合理性、③目標の明確さ、目標達成のための評価とそれを実現するための研修の実施、④社会問題の解決に強い関心があること、に特徴が見られる。

各種の調査によって問題の諸相を様々な方法で概念化し、いかなる方法でそれを解決するのかを体系的に検討し、結果に従って政策の提言を行うことも広範に行われる。その提言が政策となった事例も少なくないようだ。ネットワークの豊かさ、組織の多様性や数の多さもその特徴である。また既存のメディア(新聞・放送など)とSNSなどのインターネットメディアを効果的に利用している。

3 日本のこれから―オーストラリアでの二つの出来事から考える

オーストラリア滞在中、大きな出来事が二つあった。

一つ目は「インドネシアでのオーストラリア人死刑囚の死刑執行」である。執行予定日の前日にはJSSで、また多くの教会やその他の場所で祈りが捧げられ、その模様の一部や死刑囚の家族のコメントなどが繰り返し報道されていた。アボット首相(当時)も死刑をやめるように主張していた。しかし死刑は執行され、政府は外交官をインドネシアから引き上げた。

二つ目は「メルボルンでの先住民(アボリジナル)に関する集会」である。西オーストラリア州政府はアボリジナルのコミュニティのライフラインを止め、コミュニティの存立を困難にする政策を行っている。先住民の不利に対応するためできた制度も縮小傾向にあり、またアボット首相(当時)はこの地域の人々の生活を「生活様式の選択」だと話し、そのことは「先住民の伝統を否定している」と大きな非難を浴びた。市の中心部でデモ行進が行われ、交通の要所であるフリンダースストリート駅前の大きな交差点にあるトラムの線路の上で、力強い演説や先住民の踊りなどが披露される平和的な集まりだった。その間、トラムの運行は停止された。交差点の角にはアングリカンの教会があり、聖堂の外には“Let's fully welcome refugees”(難民を全面的に迎え、受け入れよう)という垂れ幕が下がっている。

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どちらにもcompassion(共感)やsolidarity(連帯)という言葉が頻繁に使われていた。オーストラリアの人々は移民(の子孫)が多くを占め、一方で先住民との関係の問題など、多様な文化の人々がともにどのように国を形成していくのかに格闘し続けてきたという。

アボリジナルのデモに行った時に、小学生ぐらいの子連れの親子はもとより、ストローラーを押しているカップルが目に入った。子どもを政治に参加させ、自己の政治観を形成する機会を提供すること、政治への参加の権利を保障すること、「連帯意識」を学ばせる場となっているかもしれない。死刑回避のための嘆願の祈りが極めて広範になされていた点とあわせて、社会を形成する上で「連帯」が一つのキーワードになるのだろうと考えた。

日本の「公」に対する考え方は、戦前からの公私関係が持ち込まれ、市民性とのかかわりで論じられずに、「公的機関」と結びついて理解される傾向にあるとされる。何かの課題があると、政府が一元的に管理化を進行させることによって解決すべきという話になりやすい。また、人や政府に対して信頼しない度合いが他国に比べて高いといわれ、自分の外部となる人と協力するという行動を取りにくいと指摘する人がいる。

今回の2週間あまりの訪問で、オーストラリアの文化を理解したとは全く考えていない。文化も違うが、JSSなどの活動から、日本の社会問題に取り組む民間組織でも、「具体的な目標を持ち、そこには社会のあるべき価値が示されていること」「活動において具体的にそれにどのように取り組むのかを、系統立って計画すること。またいつもその振り返りを行って活動を調整すること」「政策を変えていくためのビジョンを持つこと」を取り入れることができるだろう。

パチ神父とベニー神父の来日

光延 一郎 SJ
イエズス会社会司牧センター所長

11月30日(月)から12月8日(火)まで、ローマのイエズス会社会正義とエコロジー事務局の責任者のパチ神父(Patxi Álvarez SJ)と、同東アジア・パシフィック地区コーディネーターのベニー神父(Benny Hari Juliawan SJ) が来日しました。

両神父はこの間、SJハウスや神学院、岐部ホールにて日本管区のイエズス会員と話し合い、また上智大学で開催された2つのシンポジウム「ローマ教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』とCOP21アジェンダ」(地球環境学研究科主催)および「食と農を支配するのは誰か?~グローバル化時代における社会運動、民主主義、人権への新たな課題」(グローバル・コンサーン研究所主催)に、講演者またパネラーとして参加しました。

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東京での日程を終えた後、日本管区の元修練院で、第2次世界大戦中アルぺ神父(後のイエズス会総会長)が修練長を務めていた広島の長束修道院にも泊り、さらに山口県・島根県で働くイエズス会員および協働者と会いました。

イエズス会員との話し合いにおいて、パチ神父は世界の社会使徒職で注目されるいくつかの問題について話しました。アフリカでは、種族間・宗教間で紛争が続いており、これに対して和解と平和、およびHIV感染症(エイズ)と難民問題への取り組みが重大課題であること。南米では先住民の人権と移民、また特に広大なアマゾン地域などにおける水・資源・環境が問題であること。南インドでは諸種族・先住民・被差別民の教育や人権、移民、またそうした人々が担う鉱山労働問題などへの取り組みがなされているとのことです。

ベニー神父は、文化と言語が多様な東アジア・パシフィック地区の問題点と課題を挙げました。社会使徒職は、たいてい個人の主導で始まり、活動は地域に根差し、そしてそれぞれに専門的な知識を必要とします。しかしマンパワーは限られており、ネットワークをつくっていくのもむずかしい状況が続いていました。これに対して、東アジア・パシフィック地区社会使徒職は近年、どこでだれがどのような問題に取り組んでいるのかを示す「マッピング」を作成しました。これにより、地区内のコミュニケーションがとりやすくなりました。現在は、特に移民問題におけるネットワークがかなり活発になっています。他にも環境や鉱山労働の分野で交流が進んでいます。今後は、さらにイエズス会難民サービス(JRS)とも協力すること、また神学生がそうした活動に体験参加ができるよう支援したいと、ベニー神父は語りました。

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上智大学での2つのシンポジウムには、カトリック信者の教職員がきわめて少ない大学にイエズス会のローマ本部と東アジア・パシフィック地区で重職を担う神父が訪問して交流をもったこと自体に大きな意味がありました。折しも、社会司牧センターが最近『イエズス会の大学における正義の促進』というパンフレット(パチ神父が編集責任者であるPromotio Iustitiae 116号)を翻訳し、上智大学で配布したので、イエズス会としてどのような方向性を大学に期待しているかをパチ神父が明確に語り、とても意義深かったと思います。とりわけ社会に向き合う際に、傍観的にではなく、小さくされている人々と共に歩むという倫理的決断が必要であることが強調されたことに、多くの人々が共感したと思います。

CAM香港報告
―働く若者よ、尊厳のために闘おう!―

柳川 朋毅
イエズス会社会司牧センタースタッフ
東京JOC(カトリック青年労働者連盟)リーダー

CAM2015香港

今から100年以上前に、ベルギーのカルデン神父(後に枢機卿)によって始められた青年労働者の運動「JOC」は、今では日本を含め、世界中に広がっています。JOCの国際書記局はベルギーにありますが、大陸ごとにも書記局が存在します。日本の属するアジア太平洋地域の書記局は現在香港にあり、Asia-Pacificを略してASPAC(アスパック)と呼ばれています。

JOCでは4年に一度(オリンピックと同年)、全世界の代表が集まる国際評議会が行われます。前回(2012年)はアフリカのガーナで行われ、次回(2016年)はドイツで開催される予定です。この4年間、JOCではすべての人が「正当な労働」、「社会保障」、「性の平等」、「質の良い教育」を得られるよう目指して、四本柱の国際活動プランを実行中です。

アジア太平洋地域では2年に一度、CAM(大陸活動会議:Continental Action Meeting)という会議が開かれます。前回(2013年)はフィリピンで行われたのですが、今回は今年の10月に香港で開かれ、私と札幌JOCのリーダーが、日本の代表として参加してきました。

大陸「活動」会議という名前の通り、CAMの中では、各国のJOC活動の様子が報告され、社会・政治・経済・文化の観点から分析を加えていきます。そこから見えてきた現代世界の働く若者の現状に対して、特に四本柱の国際活動プランを意識しながら、大陸の活動プランを考えていきます。

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アジア太平洋地域のJOC活動

ASPACの管轄に置かれているアジア太平洋地域の国は現在8か国(パキスタンインド、スリランカ、インドネシア、フィリピン日本オーストラリア、中国)ですが、そのうち中国はエクステンションと呼ばれ、準メンバー国のように扱われます。以前はもっと多くの国(例えばタイや香港)にもJOCは存在していたのですが、次第に数が減っている状態です。今回のCAMには、残念ながら、パキスタンとスリランカの代表が参加することができませんでした。そのかわり、中国から一人の青年が参加できたことは、大きな喜びでした。

各国の代表からは、各国のJOCが取り組んでいる、働く若者の問題についての説明がなされました。以下簡単に、各国のJOC活動を紹介したいと思います。

フィリピン代表からは、ペディキャブと呼ばれる三輪タクシーのドライバーの権利擁護や、金の鉱山で働く若者の労働環境改善に取り組んでいるという話がなされました。私が特に驚いたのは、鉱山で働く人の中には、まだ10代前半の少年の姿もあったことです。彼らは極めて過酷な労働条件で働いており、時には落盤事故によって命を落とすことも珍しくありません。

オーストラリアのJOCは、特に外国人留学生や移民労働者、難民・亡命希望者の権利擁護に努めているそうです。こうした外国人たちは多くの差別や偏見に苦しみ、社会の周辺に追いやられているので、人々の意識を変革することにも取り組んでいます。

インドでは、若者の失業の問題が大変深刻らしく、雇用の促進や起業の支援に取り組んでいるそうです。また、子どもへの教育が十分ではなく、児童労働も横行している現状から、教育の重要性が強調されました。

インドネシアでは、大企業の衣服工場で働いていたメンバーが、JOC活動を通して労働者の権利を主張したところ、最終的には全員が解雇されてしまうという出来事が数年前に起きました。彼らはそれ以降も、大企業相手に闘いを続けていましたが、最近、クビになったメンバーを集めて、服やデザインを手掛ける小さなお店を開店したと語ってくれました。

中国JOCはまだ発足したばかりで、しっかりとした体制が出来上がっておらず、また政治的な事情からこの場で彼らの活動を具体的に紹介することができません。けれども今回、中国の青年と個人的にいろいろな話をすることができました。特に、国家外交面では両国がこじれているように見えても、私たち市民の間では、歴史の問題も含めて、関係を修復していこうと話し合えたことは、大変意味のある経験でした。

今回参加できなかった国については、その国を訪問したASPACメンバーから報告がなされました。スリランカのメンバーは、主に服をつくる女性たちで、その権利擁護をしているそうです。パキスタンのメンバーの多くは、レンガづくりに従事している青年で、ほとんどが16歳以下だそうです。低賃金、長時間労働に加え、レンガづくりは危険な作業で、事故や怪我が頻発しているので、仕事の安全性や社会保障を求めて活動しています。社会の中での女性の地位がまだまだ低く、また借金のかたとして子どもがとられることもあるなど、一つひとつの話が衝撃でした。

日本のJOCは他国と比べると少し特殊で、ある特徴(例えば職業や性別など)でグループ分けをせず、一つのグループの中には正規・非正規労働者、失業者や学生、病気や障がいを抱えている人などが混在しています。青年によって具体的な要求は異なるため、日本JOCとして一つの闘いに絞ることはできません。ただし、日本の若者たちに共通しているのは、人間関係や他者とのコミュニケーションに大きな困難を感じていることです。能力や成果、経済的な利益を偏重する過度な競争社会の中で傷ついた若者は、低い自己肯定感と孤独のうちに苦しんでいます。日本JOCではそうした若者たちが、本当の自分をさらけ出しても受け入れられ、共に闘う仲間をつくることのできる「居場所」を築くことに取り組んでいると発表しました。

尊厳のための闘い

CAMの中では、多くの課題や困難も浮き彫りになりました。ASPAC間でどのように協力体制を築き上げていくかは大きな課題ですし、そのためには、言葉の問題や財源の不足など多くの壁が存在します。

来年の国際評議会に向けた、大陸の活動プランを考えるにあたり、「尊厳(Dignity)」という言葉が注目されました。暴力的な資本主義と新自由主義の中で、働く若者は尊厳を失って生きています。「一人の働く若者は、世界のすべての金銀よりも価値がある」というカルデン枢機卿の信仰に基づき、私たちはすべての人が尊厳ある生活を送るために、正当な労働と社会保障によって十分な収入を得られるように闘うことを決めました。

香港の外国人家事労働者

CAMでは毎回、会議に加えて、エクスポージャーとして、開催地のJOC活動や働く若者の現状を見学しに行きます。二年前のフィリピンでは、ペディキャブのドライバーたちと交流し、彼らの仕事や生活の状況を見学したそうです。現在香港にはJOCのベースグループがなくなってしまいましたが、私たちは日曜日に、ヴィクトリア・パークという大きな公園に連れて行ってもらいました。そこには多くの若いインドネシア人女性が集まっていました。彼女たちは、香港の家庭で家事労働をするために、いわゆる「出稼ぎ」に来ている女性たちで、今回は2つのインドネシア人労働団体から、家事労働者の実態について聞くことができました。

彼女たちは最低賃金(月4210香港ドル)すれすれの給料で雇われており、同居している主人からの深刻なパワハラやセクハラが横行しているそうです。実際、いくつかの虐待事件も報道されていますが、家庭という見えない密室で行われる性質上、それらは氷山の一角でしょう。日本でも外国人家事労働者の受け入れが検討されていますが、彼女たちから語られる生々しい人権侵害の話を聞きながら、人権後進国の日本では、到底運用できる制度ではないと感じました。

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そうした中でも彼女たちは、週に1日の休みである日曜日には、主人と仕事から解放されて、こうしてヴィクトリア・パークに集まり、料理を囲んでおしゃべりをし、遊びや歌や踊りに興じ、コーランや労働者の権利について学んでいます。

東ティモールと教育

村山 兵衛 SJ(神学生)

今回は東ティモールの教育事情と、「信仰に根差した正義を実践する人」を養成するイエズス会の教育ミッションを紹介したいと思います。

2002年の独立以来、東ティモールは教育分野で多くの課題に直面しています。2013年には元々の初等教育6年間と中等教育3年間の義務教育が一貫化され、新たに9年間の無償一貫教育制度(6歳から15歳)が始まりました。しかし、高い出生率による生徒急増の中で、インドネシア統治時代に失われた学校施設や教師の穴を埋めるには多くの月日を要します。特に地方では中高教育まで十分に受けられる子どもは限られています。

言語も教育現場の課題です。親世代にあたる成人の約半数が字を読めないという現状の中、生徒たちは公用語のテトゥン語とポルトガル語、そして英語を学び、さらに僅かに配布されたポルトガル語表記の教科書を使って、他の教科を学ばなければなりません。

家庭や地域における貧困、教育の重要性に対する親の理解不足から、子どもを家事手伝いや賃金労働に従事させる場合があります。しかも未整備の道路を経ての通学にかかる時間やお金、質素すぎる食事による栄養失調、荒廃が進む若者文化、学校設備や教員養成を計画・管理する政府の力不足のために、生徒の学習達成度は低く、中途で挫折する子どももかなりいます。

そんな中で2013年、首都ディリから約20km離れた漁民の村に「聖イグナチオ・デ・ロヨラ学院」が、イエズス会中高一貫教育の歩みを始めました。2016年には中1から高1まで約420人が揃います。地元の村から歩いてくる生徒と、ディリや他県からスクール・バスに乗ってくる生徒が、多くの教科をともに学んでいます。奨学金制度や地方出身の子どもの入学支援(学習サポート)にも力を注いで、恵まれない境涯にある子どもたちに、質の高い教育を提供しようとしています。

2015年4月以来、私はこの学校で音楽・美術と宗教・倫理の教員、またクラス担任としても働いています。養成中の神学生でもあり、さまざまな経験や出会いを通して、生徒や教師たちから多くを学んでいます。

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イエズス会の教育ミッションは、会の創立者イグナチオによって、神と他者へのより大いなる奉仕の道の一つとして、ただ生徒の人間的成長に寄与するためだけではなく、いつの時代も危機に直面している信仰を擁護するために、始められました。私たちイエズス会の教育理念は、私たちが修練期以来歩んでいる養成の道に深く根差しています。すなわち、キリストの愛に土台を置く信仰と正義を、実行・実現する「行動へと開かれた人格」を養成することです。東ティモールの人々の将来と信仰のためにこの教育理念を実践すること、これが現在の自分の課題となっています。